知性が大事42

いよいよ日本に帰る日が間近になった頃、私のところに新しい校長のテッドがやって来て,前任校での業務の引継ぎとか何かでパースにしばらく戻るので、そのときに家に来ないかといってきた。
一週間ほど家に滞在してそれから帰国すればいいと。家族にも会わせたいからとも言った。
テッドと会話を交わしたのはそのときが初めてで、むこうにしてみても私のことをよく知っているわけではない。それなのに、この申し出。なぜなんだろうと思いながらも申し出を受けることにした。
カタンニンを出発する日,カタンニンでの最後のホームステイ先の家族が揃って私を見送ってくれた。この家族は5人家族で生物の先生をしているボブとインド人の奥さんのインディラ。二男一女の子供たちの5人家族。
全員による見送りといったが、出発する直前まで,一番下の男の子のジャスティンは家から出てこなかった。
長男のスターリンによると、とても私に懐いていたジャスティンは私が去ることが悲しくてすねているんだという。
父親のボブが内に入って,無理やりジャスティンを外に連れ出した。「ほら、ちゃんと挨拶しなくっちゃ」といわれて、ジャスティンはやっとこちらに顔を向け、泣きそうな顔で私に「さよなら」といった。
後ろ髪を引かれるとはこのことだ。このときの情景はその後、何年も事あるごとに思い出され、目頭が熱くなった。
テッドの車で一路パースへ。カタンニンの町よさようなら。パースまで車で2時間ちょっとはかかる。その間にテッドと車中でどんな会話交わしたか全く記憶にない。
頭の中は、さっき別れた家族のことやカタンニンでの出来事で一杯だったに違いない。
さて、テッドの家に着いて、まず奥さんのシンディに紹介された。
テッドは映画に出てくる絵に描いたような英国紳士の風貌をしていた。その奥さんのシンディもこのテッドに相応しい整った顔立ちの女性。
舞台はパース郊外の瀟洒な一戸立ちの家。むかし見たアメリカのホームドラマそのままの情景が目の前にあった。
テッドとシンディには、息子と娘のジョージとエマがいた。私が到着したときにはどちらもまだ学校だった。
エマが最初に高校から帰って来て,夕食間近の時間になってジョージも帰ってきた。
ジョージはパース大学工学部の一年生だという。父親とは違って、がっしりした体つきで、紹介されたときに自分から握手を求めてきた。