エッシャー展

二ヶ月に一度ぐらい、あるボランティアグループの活動に参加している。
視力に障害のある人たちとともに、美術館に行って絵の鑑賞をしようというグループだ。
目に障害があるのに、美術鑑賞?
活動の内容は、健常者が言葉で、絵の内容を障害のある人たちに説明し、そうしたやり取りの中で、健常者と障害者の交流を深めて行こうというもの。
21日の日曜日は、そのグループの美術鑑賞会で、エッシャー展に行ってきた。
見ることによって得られる情報を言葉に置き換えて説明することの困難さは、やってみないとわからないだろう。
まして今回は、視覚トリックを用いて、見るものを異次元空間に誘い込むエッシャーの絵画。

  • 婚姻の絆


説明の難しさは、これまで経験のないものであった。
同じグループになった視覚障害者のSさんは、それでもわたしの言葉による説明で、十分楽しめたといってくれた。
「婚姻の絆」という作品の場合、人間の頭そっくりのりんごがあり、そのりんごの皮をむいて、皮だけ元の形に戻したような絵だと説明した。
生まれたときから全盲の彼女の感覚世界は、音と感触が中心となる。
好奇心を誘われたものには、やはり触れてみたくなるという。
柔らかく、暖かい感触のものに触れると、心が安らぎ、その逆のものは、気持ちが悪くなるらしい。
いろいろな生き物に触れた感想を聞いてみると、羊に触れたときは気持ちがよく、爬虫類、バッタなどの昆虫は触ったときの感触が悪く、嫌いだそうだ。
実際に触れたり、味わったりすると、危険なものを視覚は、先取りして教えてくれる。
目の見える人間がその姿を見ただけで、おぞましく感じるの爬虫類や昆虫は、触った感じが気持ち悪いとSさんは言う。このことは、視覚と触覚は感覚世界の深いところで、強く関連しあっていることを示している。