新たな子犬たち2013-2-3


午前10時ごろ、再び現場に戻ってみた。8時ごろきたときより、川の水位が上がっている。中州の草むらも浸水していた。
もし、現場近くで子犬を産んでいたのなら、もう避難し終わっていなければ子犬が危ないという状況だった。
これまでなら、こういう状況の時、母犬は子犬を産んだ草むらから、一番近い堤防に子犬を避難させる。それで、そのあたりの堤防を探してみたが、子犬の姿はどこにもない。
近くの草むらで、子犬を産んだと思ったが、勘違いだったか。それとも、生まれて間もない子犬だから、避難させても助からないと思って見捨てたか。
そんなことを考えながら、堤防から河川敷に下りる階段を下りて、もう冠水しはじめている河川敷道路に降り立ったところ、レインコートを打つ雨音に混じって子犬の鳴き声が聞こえたような気がした。
雨音がじゃまなので、レインコートのフードをはずすと、その声は、一部を残して水没した目の前の草むら聞こえてくる。
声のする方向に歩き出すや、右手から激しい吠え声とともに、母犬のノラがこちらに向かって、猛然とダッシュしてきた。
立ち止まった私の目の前を通り過ぎると、ノラは子犬の鳴き声のする草むらに向かった。そして、口に一匹の子犬をくわえたまま、再び私の目の前を通り過ぎ、何処かへ向かった。
草むらからはまだ複数の子犬の鳴き声が聞こえていた。母犬が戻って助ける前に子犬はおぼれてしまうのは確実だった。
意を決して、草むらに踏み込んだ。水はすでに膝の高さに達していた。水没した草むらは実に歩きにくい。
足元がどうなっているかわからない上、草が足元に絡みつき前進を妨げる。たった4、5mの距離なのに、なかなか前に進めない。
何とか鳴き声のする草むらにたどり着き、草をかき分けると、すでに、水中に漂っている二頭の子犬の姿が見えた。
もうだめか、おぼれた子犬を救うすべなどわからない。両の手に二匹の体を持って、少しゆすってみた。
すると、二匹とも悲鳴に近い声をあげた。まだ生きていたのだ。声を出すからには、呼吸もしているし、心臓も動いているだろう。助かるかもしれない。
保護した二匹を、乗って来た車の後部座席に置くと、はやる気持ちを抑えながら、帰宅した。