日本人の英作文2015-7

「つばめのつんちゃん」の英作文、第6回目。
課題文と訳文の例はつぎのとおり。

「大きくなったから、巣がきゅうくつになったのかな。どうしよう…」
おろおろしているひろみせんせいに、サリーちゃんが顔をまっかにしておこりました。
「この子だけ、かわいそう。せんせい、なんとかして!」
「そ、そうだね。じゃあ、かわりの巣を作ってみようか」
訳文1
As they have been getting bigger, the nest might have become too crampled for them all," said Hiromi-sensei, completely bewildered.
"But why this baby? Poor little bird!" replied said furiously.
"Yes, yes," said Hiromi soothingly, "OK, let's make another nest for it!"
訳文2
"I am afraid they have grown up and come to live in close nest. What should I do?"
Sally burned red with rage in the face and said to Ms. Hiromi being in a panic.
"Only this baby is pity! Ms, do something about it!"
"Ye, yes. So I will try to make another nest."

第一文目。文末の「〜かな」の部分。訳文1は訳出していない。訳文2は"I am afraid"で表現。"I am afraid"は短縮して"I'm afraid"とするのが普通で、きちんと"am"を発音することはまれ。
「〜かな」を表現するのには"I think"や"I'm afraid"でもかまわないと思うが、こうした状況にもっと相応しい表現がある。
それは"I wonder if"という言い方。この表現は中学でも倣うはずだが,なぜかうまく使いこなせる日本人はほとんどいない。
多分、この表現を習ったとき,日本語訳が「〜かしら」となっていたことが原因だと思う。
「〜かしら」という言い方を男性はしない。この言い方を使ったが最後、あっち系という烙印が押されるから,ストレートの男性は絶対に使わない。
女性でも全員は使わないだろう。
適切ではない日本語訳がつけられたため、この便利な英語を使う日本人がほとんどいなのだと思う。
"wonder if"は、課題文のような場合にぴたりとはまる表現だ。
「きゅうくつになった」の部分を訳文1は現在完了進行形を使った。
現在完了進行形という時制をうまく使いこなせる日本人は、これまたほとんどいない。
学校文法では、この時制は,「動作動詞とともに用い,ある動作が継続中であることを表す」というように教わる。
訳文1の作者も,ヒナたちが今も成長中なのだから,この時制がぴったりだと思ったのだろう。それだったら現在進行で十分なのだ。
そもそも、現在進行形と現在完了進行形との違いがどこにあるのかが分かっていない。
現在完了形と同じように,現在完了進行形は過去のある時点を念頭に、そのときからある動作が途切れることなく,「ずっと〜している」という継続性を言いたいための表現だ。
課題文の場合、ひなが卵から孵ったときから,今までずっと育っているのだから,ぴったりと思うかもしれないが,今度は次の文との整合性が悪い。
つまり、「巣が窮屈になった」のはヒナが成長したことの結果なのだから、継続性を言った結末として、「巣が窮屈になった」ことを述べるのは、おかしなことなのだ。
ここは訳文2のように、現在完了形を用いるのが正しい。
しかし、訳文2は「窮屈になった」という部分を課題文とは違った内容の英語にしている。
なぜそうしたのかと聞くと、「巣が窮屈になった」を単純に"the nest has become small"というのは、巣が小さくなったということなので、おかしいからと説明した。
つまり、巣それ自体は縮んだりしないからという理屈。
これはちょっと聞くと正しいように聞こえる。たとえば,"the nest has shrunk"というような言い方だと、まさしく「巣が縮んだ」の意味になるのでおかしい。
一方、"small"は相対的な大きさのことなので、"become small"は巣が縮んだ場合だけでなく、この場合のようにヒナが成長して、その巣にとって大きくなりすぎた場合でも使えるはずなのだが、同じように考えるネイティブが多いようで,課題文のような状況で"has become small"という表現を使うことはまずないようだ。
ここでも、こうした状況にもっと相応しい表現がある。"outgrow"という単語を使う。
この単語の前に"out"が着いた単語には、他にも"outnumber, outlive, outweigh"などいろいろあり、うまく使えば便利なのに、これを使う日本人はほとんどいない。
「きゅうくつ」を訳文1は"crampled"としたが、これは"cramped"の間違いだと思う。
しかし"has become cramped"としても、上記の説明どおり、ネイティブには不自然な表現だと思われるだろう。
"outgrow"の代わりに"grow out of..."という表現でもかまわない。
「窮屈」という意味の英語を和英辞典で探して英作文するという手法では、ある状況にぴったりの表現を見つけることはできない。
課題箇所の最後の部分。「巣を作ってみようか」を訳文1は、"Let's make..."という表現を使い、訳文2は"I will try to..."と表現した。
訳文2の"try to 動詞原型"を日本人は主語のあることに対する積極的な姿勢を表すものとして捉えているようだ。
しかし、これを過去形とともに使った場合、ほとんどがうまく行かなかったことや,そもそも何ら着手もしなかった場合に使う表現で、未来形とともに使った場合も失敗したときの言い訳を先に述べているといった印象がある。
ここは、訳文1のように"Let's"を使うのが正しい。
この点について、訳文2の作者は保育園児の二人が巣作りに参加できるわけがなく,ひろみ先生自身の決心を表していると解釈したのだろう。
この点に関しては説明が長くなるので、項を改めて詳しく説明することにする。

訳例
"I wonder if the chicks have outgrown the nest. What are we going to do?"
Burning her face red with anger at the teacher's timidness, Sally-chan said to her, "It's a pity only this chick is treated badly. Do something for it, Sensei."
"Oh, you're right. Let's make another nest for it."