日本人の英作文2016-4

「別れ話は突然に」の今回の課題箇所と訳文の例は次のとおり。

課題文
「無視?つまり、俺が鈍いってことかい?」
「そうだよ」亜美は、亮平の方を鋭い眼差しで睨んだ。「この間、あたしが仕事のことを相談した時、あなた笑ったよね。それで、先がわからないのは何でも同じだよって軽く言った。あたしは悩んでいたのに、あんな言い方しなくたっていいじゃない」
訳文1
"Ignore? You mean I have an insensitive heart?"
"Yes", saying, Ami looked at Ryohei keenly.
"When I talked about work on the other day, you laughed . And then you said lightly no one can tell what will happen in the future. Althouth I was worried about my job, you didn't have to talk like that."
訳文2
"I didn't understand your feeling? You mean I'm insensitive?"
"Yes." Ami gave Ryohei a fierce look.
"The other day, I asked your opinion about my work and you laughed, right?
Then you said nobody knew what would happen in the future without giving it enough consideration. Since I've been worried about it, you shouldn't have responded that way."

日本文の「無視?」を訳文1は、そのまま直訳で"Ignore?"としている。
日本語は、主語も目的語もなくても成立する場合があるが,英語では主語が省略される場合はあっても,目的語まで省略というのはないだろう。まだ時制も原形のままというも問題。
「鋭い眼差し」は"looked sharply"でよさそう。
Longmanに"sharply"の意味として"in a disapproving or unfriendly way"が二番目に挙げられている。
一方、訳文1が使っている"keely"は、Longmanにはエントリーがなく,"keen"の項目を見ていってもそれらしい意味が出ていない。
また、Cambridgeには、"keenly"で、"in a way that shows enthusiasm"の意味しか出ておらず、この文脈では使えそうにない。
というわけで、訳文1の当該箇所は"Yes", Ami said, looking sharply at Ryohei. とすればよいことになる。
「仕事のことで相談する」は、訳文1は、"talk about"を訳文2は、"ask one's opinion"を使っている。
"talk about"のほうは、単に「〜について話す」という意味で、相談する意味合いはあまりない。
訳文2の"ask one's opinion"のほうは、相談の意味合いが若干あるように思う。
「相談する」で真っ先に思いつくのは,"consult"だが、どちらの訳者もこの単語を使わなかったのは、この単語が「専門家に意見を求める」という意味だと考えたからだろう。
ところが、"consult with"とすれば、同僚などにアドバイスなり,意見を求める場合使うようで、この言い方で問題ない。
「先のことが分からないのは…」の部分は、英語の決まり文句があるのでそれを使う。
いろいろこれに該当する言い方を検索すると、
"No one knows what the future holds."が一番ヒットした。
問題は次の文。「あたしは悩んでいたのに、あんな言い方しなくたっていいじゃない」
訳文1は日本語の表現どおり、前半部分を"although"で始めて、"you didn't have to..."の部分で終わらせた。
この構成に訳文2の訳者から、文の前半部分と,後半部分が論理的につながっていないのではとの質問があった。
そう思ったからこそ、訳文2では、前半部分を"since"で始めたのだという。
なるほど、"although"は、それで始まる従属節の内容と,裏腹の結果が主節に来ないとおかしいわけで,訳文1の該当部分は、そうした構造になっていない。
日本語では、こうした論理的不整合があってもなんら問題ない。
いつも言うことだが、日本の言語文化では、表現者側の表現に不備があっても,それを受け手側が聞きとがめない。受け手側で、ほとんど無意識のうちに修正を加えて,その内容を受け取る。
この場合も、英語的な論理では、「〜のに」に対応すべき部分は、その前の文だ。
つまり、論理的整合性があるように、もとの日本語を書き換えると、
「そして、あたしは悩んでいたのに先がわからないのは何でも同じだよって軽く言った。」となる。
訳例では、この書き換えたほうの日本語を英訳してみた。
訳例
"Me? Ignored you? Don't tell me I'm insensitive."
"That's exactly what I meant, Ami said, looking sharply at Ryohei, "The other day, when I consulted with you about my job, you laughed it away. Then you lightly said no one knows what the future holds though I was worried about my career. The way you said that really hurt me."