妖怪件(くだん)

にんべんに牛と書いて「くだん」と読む。これは体は牛で顔が人間と言う怪物の事だ。前回記事でも取り上げた異種生物合体の怪物。

この件(くだん)を含め、疫病に関わりある日本の妖怪たちを取り上げた展覧会「驚異と怪異ーモンスターたちは告げるー」が兵庫県立歴史博物館で開かれている。

そうした妖怪の一つが今流行の「アマビエ」。博覧会の展示は一年以上前に決まっていたそうで、ネットでの流行にあわせたものではないらしい。

この博物館の学芸課長の一押しは流行のアマビエではなく件。件は来るべき災厄を予言する予言獣。

SF作家の小松左京の短編にこの件をモチーフにしたものがある。タイトルは「件の母」。

「件の母」はSF作家の小松左京の作品なのでSFにジャンル分けされるのだろうが、内容はどう見てもホラー。

異性物合体が苦手な私にとっては、これまで読んだどのホラーよりも恐ろしい話だ。

あらすじは次のようなものだ。

阪神大空襲で住む家を失ってしまった主人公の良夫。かつて良夫の家の家政婦をしていたお咲がやってきて、現在住み込みで勤めている屋敷で一緒に暮らすように勧めてくれる。

その屋敷は大きな屋敷にも関わらず住んでいる人間はお咲と家主である「おばさん」、そして病気にかかっていて、奥の間で寝ているという女の子だけ。

同居を許された良夫だが、病気の女の子が寝ている奥の間へは近づかないように釘を刺される。

この屋敷での生活が始まると、良夫はこの屋敷の不気味さに気づく事になる。

屋敷のどこからか、すすり泣く声が聞こえてきたり、お咲が血のようなどろっとした物が盛られた皿や血膿の臭いがする汚れた包帯を持って奥の間に出入りするのを見かけたりするようになったのだ。

そして時折、おばさんが妙な事を口にする。いわく、「もっと西のほうはここより(芦屋の事)もっとひどいことになるわ」とか、「もうすぐ何もかも終わる」とか。

そして8月15日。良夫は、奥の間に寝ている女の子を見ることとなった。それは年のころ12、3才位の体は人間でも頭の部分が牛の怪物だったのだ。

良夫がその怪物を見てしまった事を知ったおばさんは良夫に語る。

代々おばさんの家系では、そのような姿の子供ができる。そしてその子供は種々の予言で家を救う守り神であると。恐ろしい姿なのは、おばさん夫婦の先祖が代々虐げてきた百姓の怨みの結晶した劫(ごう)であると。

後年、成人し結婚もした良夫。その良夫に女の子が生まれる。そして、件(くだん)をうっかり目にしてしまった事が原因か、その女の子の頭には角が生えていた。

結末の部分の情景がまるで実際にその場面を見たかのような感覚になり、本当に震え上がった。

わたしの場合、夢にまでその場面が現れ、結婚して女の子が生まれたら、その子の頭に角が生えているのではないかと言う恐怖がいつまでも付きまとった。

実際には私は結婚する事もなく、したがって女の子が生まれる事もなかったが、そもそも結婚する気になれなかった理由の一つだったかもしれない。それぐらいこの話はインパクトがあった。