右か左か? 番外編1

「右か左か」シリーズを書くに当たって、何冊かの本を読んだ。その中の一冊に「自然界における左と右」という本があった。
初版は結構古く、1971年だから、40年以上前だ。科学の進歩にあわせて、新しい知見を書き加えていったものらしく、内容は素粒子の世界から、銀河宇宙にまで及ぶ。
版を重ねていったということは、ずっと読み続けられたからだろう。
この本の第6章に風呂桶の水を抜く時にできる渦について書いてある。この渦の向きを決める力として、コリオリの力について述べている箇所で、北極地点に置いたバスタブの渦を表した図を表示している。
画像がその図なのだが、北極地点に置いたバスタブの渦は反時計回りにできると本文では説明しているのに、それを表した図はどう見ても時計回りの渦に見える。
いったいどういうことなのだろう。初版が出版され、何十年も経っているのに、この図の間違いを誰も指摘しないというのは。
内容からいって、理科系大学生の教養書として読まれてきたと思うのだが、頭のいい学生がそろっているはずの理科系大学生の誰も、この図のおかしさに気がつかないのだろうか。
図がおかしくなったのは、コリオリの力だけでバスタブにできる渦の向きが決まるような説明をしたためなのだが、渦を生じさせる力は、もう一つ、水が排水溝に向かって流れ込む力がある。
この力と、コリオリの力の合力が左回りの渦を引き起こす原因という説明で一応は納得できるし、図もそうした説明に適合するものでなければならない。
興味深い内容が沢山盛り込まれていて、読んで面白い本なのだが、バスタブ渦に関するこの箇所には、水の記憶力などというオカルティックな言葉も出てきたりして、本の内容全体に対する印象が胡散臭くなってしまっている。

  • バスタブにできる渦

ところで、このバスタブにできる渦だが、現実のバスタブ渦は、コリオリの力なんぞ、何の関係もなく、北半球のある風呂桶だからといって、必ず左巻きにできるものではない。
このことは、どの家にも、洗面所や風呂場はあるだろうから、そこにできる渦を観察すれば、すぐわかることだ。
風呂桶だと、容量が大きく、水の無駄遣いになるだろうから、洗面所を使うとよいだろう。
その際、水をいっぱいにまで、入れて観察すると、たいてい、水が抜け切るまでに、渦の方向が何度か反転することに気がつく。
このことだけをとっても、渦の方向には、コリオリの力は関係がないことがわかる。