外来語3

日本のある家電メーカー。資金繰りが悪化して、米国系金融資本の資金援助を受けようとした。
交渉はメーカー側が用意した通訳を介して、英語で行われた。交渉の場はメーカーの本社会議室。その交渉の場でのこと。
金融資本側の要求は徹底したコストダウン。メーカーはコストダウンの努力が足りないと迫る。
それに対して、メーカー側のトップが次のような発言をした。
「御社の要求はよく解りました。当社は今後も更なるコストダウンにチャレンジする所存です。」
この発言が通訳を介して、相手側に伝えられたところ、金融資本側の代表が、通訳の内容に疑問を呈した。
メーカー側の代表の発言の中に、「チャレンジ」という言葉が使われていたのに、通訳はその言葉を使わなかった。どういうことなのかと質問してきた。
金融資本側は、交渉の重要な場面で、交渉相手から出てきた否定的な言葉、「チャレンジ」に敏感に反応したのだ。
しかも、通訳がそのことを正直に通訳していないのではないかとの疑念が生じてしまった。
交渉の場で、いかなる理由であれ、相手に不信感を抱かせてしまっては、その交渉は成立しない。
日本人にしてみれば、相手の要求に真摯にこたえるべく、「チャレンジする」と言ったのに、その言葉を相手は否定的にしか捉えない。
相手が何で不審を抱いたのか解らないまま、交渉は決裂してしまった。
以上のストーリーは私が創作したものだが、実際に起こりうることだ。これは、企業間の交渉でのことだが、これが国益にも関わる外交交渉の場でのことだと、大変なことになってしまう。
メーカー側のトップがその発言の中に、外来語を交えたのは、いつもどおりのことなのかもしれないが、自分たちの前向きの姿勢を通訳を通さず、少しでも直接相手に伝えたいとの思いがあったのかもしれない。
しかし、外来語は、その言葉を母国語として使う相手に、用いてはいけない言葉なのだ。
そのことを日本人は少しもわかっていない。