からだのこと3

NHKの番組で私の注意を引いた点がいくつある。
その一つが、そもそもなぜ血糖値スパイクが起こるのかという点。
通常、食後には誰でも血糖値が上昇する。上昇した血糖値を正常な状態に戻すのは、インシュリンの働きだ。
インシュリンの働きは、主に次のようなものだ。
○全身のほぼすべての臓器細胞にブドウ糖をとり込ませる
○肝臓や筋肉でブドウ糖からグリコーゲン(貯蔵糖)が合成されるのを促進する
○貯蔵されているグリコーゲンが分解されるのを抑制する
○脂肪組織で脂肪が合成されるのを促進したり、脂肪の分解を抑制する
上記のうちの最初の働きについていうと、血糖は人間が生命活動を行う上でのエネルギー源だ。エネルギーを各臓器に取り込ませる働きがインシュリンにはある。
血糖はいわば家計に入ってきた現金だ。その現金を各部署の必要に応じて、配分していくのがインシュリンの役割といえばわかりやすい。
ところで、このインシュリンの働きが日本人をはじめ、アジア人では欧米人に比べて悪いらしい。
そのため、食後に増加する血糖を十分、各臓器に配り切れずに、血糖値が十分に下がりきらない。
これが、血糖値スバイクの起こる理由だと番組に参加した医者の一人が説明した。
日本人のうち、どれくらいの割合の人たちがこうした、形質を持っているのかは語られなかったが、糖尿病が国民病といわれるぐらいだから、かなりの割合の日本人が同じ特質をもっているのだろう。
糖尿病を引き起こす原因ともなるインシュリンの働きの悪さ。生存していくうえで不利だと思われる特質がある民族なり、国民の多くが持っているとなると、過去における環境では、こうした特質がむしろ生存には有利であった事象が何かあったと考えられる。
西欧において、人口を急激に少なくさせる要因は、なんといっても疫病の蔓延だった。
近代都市文化は西欧でまず進んだが、人の移動の自由や、交通手段の発達はそのまま伝染病の蔓延にも貢献することになり、西欧文明は疫病との戦いの連続といってよかった。
衛生状態を改善するはずだった下水施設が、ヨーロッパ全土を襲ったペストの急速な蔓延を引き起こしたのは皮肉としか言いようがない。
一方、日本において、人口の急減な減少をもたらしたものは、疫病ではない。なんといっても度重なる飢饉だ。
ネットを検索すると、江戸時代に限ってみても大きな飢饉が三度ないし四度も起きていたことが分かる。
ネットの記事では、飢饉による犠牲者数がはっきりとはつかめないが、それぞれの飢饉で何十万人規模だったようだ。
この飢饉という事象が淘汰条件となり、日本人の中に血糖をむやみに浪費しない形質を持つ人が増えたのではなかろうか。
つまりインシュリンの働きが弱いのではなく、血糖という現金収入をインシュリンの働きで、短時間で浪費しない形質が飢餓を生き残るには有利だったと考えられる。
しかし、現代のように、食品が有り余まり、三度の食事に事欠かない時代になると、この形質がバックファイヤーをおこし、糖尿病患者が急増しているのだとすれば辻褄は合う。