日本人の英作文2016-19

「ノックしてしまった」の部分の表現として、"can't resist ...ing"というフレーズが適切だと書いたが、このフレーズに関して、英和辞典が役に立たないのは前で述べた。
このフレーズに関して説明があるのは、「日本人の英文法」の著者、T.D ミントンによる「日本人の英文法 完全治療クリニック」。
日本人の英文法シリーズの別冊とでもいうべき本で、日本人がよくやる文法上の誤りを指摘して、正しい英語に直すという趣旨で書かれている。
その本の53番目の項目を次に引用する。

can't resist 〜ingは「意図的行動」に使う


参考書に載っていた例文
彼のジョークはとても面白かったので、笑わずにはいられなかった。
(✖) His joke was so funny that I couldn't resist laughing at it.
診断
can't help 〜ingとは逆に、can't resist 〜ingは「意図的行動」に使うフレーズ。
「思わず笑う」のは無意識の行動なので、上の英文は不自然。


can't help 〜ingの用法を確認
前項では、can't help 〜ingという表現について、日本の辞書や参考書の多くが、意味を取り違えていることをご説明しましたが、今度はその続きです。よくある例文に、I can't help laughing. (笑いをこらえきれなかった)があります。これは用法として問題ないのですが、適切な文脈まで紹介されることはまれです。そしてこの場合、文脈こそ重要なのです。例えば、葬儀の最中に、ふとしたことから笑いが止まらなくなった人を想像してください。それが、I couldn't help laughing.にふさわしい文脈です。


resistが意味するもの
日本の辞書や参考書には、can't help 〜ingが、can't resist 〜ingと同義であるかのような解説がよく見られます。これはとんでもない話です! 両者の大きな違いの一つは、前者が無意識の行動に限って使われるのに対し、後者は、意図的な行動についてのみ使われるということです。それゆえ、can't resist 〜ing = can't help 〜ingだとすることは、I want to = I don't want to だと主張するのと同じぐらいばかげています! この二つの表現の日本語訳を区別するのは不可能かもしれませんが、だからといって、この二つが同じ意味だというのは、まったく愚かな話です。
では、can't resist 〜ingの典型的な例文を見てみましょう。
▶ Even though I was already drunk, I couldn't resist opening another bottle of wine.
(もう酔っぱらっていたが、つい、もう一本ワインの栓を抜いてしまった)
▶ We couldn't resist buying the house, although we couldn't really afford it.
(本当は手の届く物件じゃなかったのに、どうしてもその家を買わずにはいられなかった)
これらの文で、can't help 〜ingを使うのは間違いです。
「ワインをもう一本飲む」「家を購入する」というのは、無意識の行動とは言えないからです。
今回の「症例」文にあるように、「冗談を聞いて笑う」というのは、通常、無意識の行動、つまりcan't help 〜ingで表す行動といっていいでしょう。ただし、例えば、「嘲笑ってやろう」という意識的な気持ちを抑え切れずに、can't resist sneering/laughing ということは可能です。しかし、「症例」文では、His joke was so funny that...となっているので、やはり「思わず(無意識に)笑ってしまった」という意味で、couldn't help laughing と続けるのが適切でしょう。
ただし、このフレーズには、前項の条件3の「本当は笑いたくなかったのに笑ってしまった」という意味合いが含まれてしまうことを覚えておきましょう。つまり「冗談を言った人物が虫の好かない相手だったので、、笑いたくなかった」「悪趣味な冗談だった」といった含みを感じ取られる可能性もあるということです。